銀行が仮想通貨を嫌うのはなぜ?

銀行員は先が読めない?

私は2002年、2003年にニューヨークで働いていたことから、当時のアメリカの金融機関トップの講演を聞く機会が結構あった。2000年代前半はアメリカの不動産価格が高騰を始めていた時であり、バブリーな会場でさまざまな講演会が行われていた。

その中で一番バブリーだったのは当時の私の勤務先が開催した講演会であり、非常に体格の良かったトップが言った言葉をいまだによく覚えている。

彼は、「音楽が鳴り続けている間、我々は踊り続けなければならない」という有名な言葉を残している。

彼が言いたかったのは、「不動産価格が上昇を続けている間、資金供給を続けなければならない。それによって顧客は喜び、我々も利益を出すことができる」ということだった。当時の私の勤務先だった金融機関は不動産投資に積極的であり、サブプライム関連商品を大体的に販売していた。

その後、2008年にリーマン・ブラザーズが経営破たんし、私の勤務先にはアメリカ政府から天文学的な額の公的資金が注入され、「踊り続けなければならない」と言ったトップは踊り続けることができなくなって、引責辞任することになった。

この時つくづく思ったのは、「(自分自身を含めて)銀行員は先が読めない」ということだった。「リスクを管理すること」が銀行の仕事の一つだが、バブルが発生している時はリスクを管理できず調子に乗ってしまい、崩壊した後で慌てふためいて処理に走ろうとする姿を見て、非常に苦々しく感じたのを覚えている。

この世はポジション・トークだらけ?

現在、私は金融機関を退職し、仮想通貨評論家コインマンとして活動しているわけだが、銀行時代の同僚たちの大多数は仮想通貨に対して、否定的な見解を示している。

2014年に、当時日本最大のビットコイン取引所だったマウントゴックスが経営破たんし、それによって仮想通貨に対するイメージが悪くなったと言われているが、そのことがいまだに影響しているのかもしれない。

2017年に入ってビットコイン価格が史上最高値を更新し、マウントゴックス・ショックは徐々に和らいでいるとされる。しかしながら、銀行などの金融機関で働いている人たちの多くは、仮想通貨に対してネガティブな意見を持っているようだ。

それが端的に現れたのは、2017年9月12日のJPモルガンCEOの発言である。アメリカの大手銀行であるJPモルガンは、2008年の金融危機による影響が比較的少なく、昔からリスク管理が上手い金融機関として知られている。

JPモルガンのCEOであるジェームズ・ダイモン氏は、10年以上最高経営責任者と会長を続けており、金融界だけではなく、政財界にも大きな影響力を持つ経営者である。ダイモン氏は以前からビットコインを毛嫌いしており、仮想通貨に対するネガティブな発言をさまざまな場面で行っていたとされる。

そのダイモン氏が9月12日に、「ビットコインは詐欺である。オランダのチューリップ球根バブルよりひどい。ビットコインに投資しているJPモルガンの社員がいれば、2つの理由から即刻解雇する。1つ目の理由は、就業規則違反であること。2つ目は、間抜けであるからだ」と述べたことが報道された。

9月4日に中国政府がICO(仮想通貨による資金調達)禁止措置を発表し、仮想通貨業界全体が下落基調にあった中、ダイモン氏の発言はビットコインなどの価格をさらに押し下げる要因になった。

元銀行員の私からするとダイモン氏の発言は当然であり、いわゆる「ポジション・トーク」であると感じた。ポジション・トークとは、自分にとって有利な発言を行い、他人に影響を与えようとする話術のことである。

金融機関が主催する投資セミナーなどで株式や外貨の話題が出ることがあるが、ポジション・トークが行われるケースがある(すべてではない)。外貨取引を得意とする金融機関が、「外貨はリスクが高いので投資するのはやめましょう」などと言わないのは、ポジション・トークの要素が含まれているからだ。

そのため、この世に存在する情報はポジション・トークである可能性があり、注意して聞かなければならない。ちなみに、私は仮想通貨やICOへの投資を行っておらず、ポジション・トークになることはないため安心してお読み頂くことができる。

仮想通貨が普及すると銀行の仕事がなくなる?

JPモルガンのトップであるダイモン氏のビットコイン批判は、「既存金融機関の仕事を奪う可能性がある仮想通貨をつぶさなければ」というインセンティブが働いているという仮説を立てることができる。

銀行の主要業務として送金、決済があるが、ビットコインをはじめとする仮想通貨が普及してしまうと、銀行の収益源を奪ってしまう可能性があるからだ。ただ、仮想通貨による送金、決済は少額のものが中心である。

巨額の取引は伝統的な金融機関を経由することが主流であり、これは今後も大きく変化することはないと予測している。ただ、個人の少額決済をビットコインなどが奪ってしまうと、JPモルガンなどの銀行は高い手数料を取れる収益源が減ってしまうことになる。

ただ、面白いことにダイモン氏はブロックチェーン技術については評価しており、JPモルガン内でも調査が行われているとされる。仮想通貨を多くの人が使い出すのは困るが、ブロックチェーンの仕組みを活用してコスト減を図りたいというのが銀行員の本音なのだろう。

日本でもメガバンクなどが仮想通貨の発行準備を行っており、2018年から一般公開が予定されている。銀行が提供する仮想通貨の場合、1円=1トークンの等価交換ができる仕組みになるケースが多い。

日本の銀行が提供しようとしている仮想通貨の場合、ATMなどを使って法定通貨をトークンに転換できるようになる予定である。ただ、この形であれば仮想通貨と言えるかどうか微妙である。

日本の法定通貨である円と等価交換ができるトークンであれば、法定通貨との差がよく分からないためである。仮想通貨が普及してしまうと銀行の仕事が奪われる可能性があるため、仮想通貨のようなもの(?)を作って利用者を囲い込もうとしていると考えられなくもない。

銀行は前例がないものを認めない?

銀行で働いたことがある人であればお分かりだと思うが、日系であっても外資系であっても前例がないことを認めにくい傾向がある。銀行の背後には金融当局という大変怖い存在があり、政府が前例主義であるケースが多いため、銀行はそれに追随せざるとえないという背景がある。

業界は違うが、アップルがiPodを開発し、ソニーが同じことをできなかったのは、ソニー・ミュージック・エンターテイメント(SME)の存在があったとされる。SMEはCDを発売していたため、ソニーがiPodのような商品を発売してしまうと、グループ会社であるSMEのCD売り上げが落ちてしまうというジレンマから、アップルに先を越されたと考えられている。

既存の銀行が革命的な仮想通貨を開発しにくいのは、昔のソニーと同じジレンマに陥っているからと考えられる。ビットコインやイーサリアムのようなものを自分たちで作ってしまうと、銀行の収益源が無くなってしまう可能性があるからだ。

伝統的な銀行が2018年に仮想通貨(のようなもの?)を一般公開し、ATMで法定通貨との等価交換を始める予定になっているが、巨大なビルの中でネクタイにスーツ姿で仮想通貨を開発する銀行員が、Tシャツにジーンズ姿でプログラミングをするイーサリアムやリップルの担当者と互角に渡り合うのはかなり難しいだろう。

今後も大銀行や金融機関のトップが、ビットコインなどを批判する報道が出るかもしれない。その際には、この記事の内容を思い出していただければ、バランスの取れた判断をすることができるだろう。

コインマン

日本初の仮想通貨評論家「コインマン」として活動する元外資系金融マン。債券ブローカーとしてニューヨークで勤務し、東京では当局対応として金融庁と対峙したリアル半沢直樹。
毎朝4時に起床し、仮想通貨ニュースを執筆する日々を過ごしている。フランスに留学していた親仏家であり、ヨガインストラクターを目指していたヨガマニアでもある。