【Ignite】ブロックチェーンが格付けの問題を解決?

少数で決めるから格付けがおかしくなる

2008年後半に勃発したアメリカ発の金融システム不安は、大手投資銀行リーマン・ブラザーズの破たんが引き金になったと一般的に考えられている。しかしながら、2007年前半にフランスの大手金融機関であるBNPパリバが、サブプライム関連ファンドの解約凍結を発表し、これが大混乱の発端になったと金融関係者の間では言われている。

サブプライムとは、所得が低い人たち向けに、住宅ローンを高めの金利で貸し出す仕組みであり、1990年代半ばからアメリカで一般的に利用され始めていた金融商品である。リスクが高めのローンであるが、2000年くらいまではサブプライム融資について、金融機関側がきちんと審査を行っていたと考えられている。

ただ、2000年代前半からアメリカの不動産価格が大きく値上がりを始めたことで、仕事がない移民や所得がほとんどない人などであっても、担保になる不動産があれば、銀行はサブプライム・ローンを貸し出すようになった。

アメリカの場合、ノンリコース・ローンのシステムが採用されており、お金がなくて融資を返せなくなった場合であっても、担保の不動産を差し出すことで債務を帳消しにすることが可能になっている。

100万米ドルの住宅ローンが残っており、50万米ドルまで資産価値が下がっている不動産であっても、銀行に家の鍵を渡すことで借金がチャラになるわけだ。このノンリコース・ローンの仕組みから、「リターン・ザ・キー(Return the key)」というフレーズが「ローンの返済ができなくなる」ことを意味するようになっている。

日本の場合、銀行が提供する住宅ローンはリコース・ローンになっている。そのため、アメリカで行われているような「リターン・ザ・キー」は通用しない。1億円の住宅ローンが残っており、5,000万円の価値しかない家の鍵を銀行に差し出しても、差額の5,000万円は返済しなければならないのだ。

2007年にBNPパリバがファンド解約凍結を発表するまで、主要な格付け機関はサブプライム関連債券の格付けを最高位のAAA(トリプルエー)にランクしていた。AAAということは、債務不履行になる可能性がもっとも低いことを意味し、その格付けに基づいて、金融機関や投資家などはサブプライム関連債券に投資を行っていたわけである。

その後、金融システム不安が起こり始めると、格付け会社はサブプライム関連債券の格付けを、一気にC以下まで引き下げることになった。C以下は投資不適格の水準であり、ジャンク債になったことを意味する。

金融システム不安が起こった際の格付け機関の行動は世界中で批判され、格付け機関に対する規制強化の議論が巻き起こるきっかけになった。主要な格付け機関は世界に数社しかなく、その中にいる格付けアナリストが国債や社債などの格付けを決定する仕組みになっている。

限られた少数の人たちによって格付けが決められていたことにより、金融不安が深刻化したと言われている。この教訓から学んだかどうかは不明だが、多くの人たちによって仮想通貨を格付けしようとするブロックチェーン企業が登場した。その会社の名は、「Ignite RATINGS」である。

格付けする人を格付けする会社

Ignite RATINGSの社名に付いている「Ignite」は、「点火する、火をつける」という意味があり、直訳すると「燃える格付け会社」ということになる。Ignite RATINGSのキャッチフレーズは、「あなたを燃やす。私たちを燃やす。世界に火をつけよう(You are Ignite. We are Ignite. Let’s set the world on fire)」である。

Ignite RATINGSのホワイトペーパー4ページ目で、「2008年の金融不安は、中央管理されていた格付け機関への依存が大きな要因だった」と述べている。前述した私の考えと基本的に同じであり、非中央管理的な格付けシステムが必要であるという想いがIgnite RATINGSは強いようだ。

Ignite RATINGSは2017年後半にICO(仮想通貨による資金調達)を実施し、300万米ドル(約3億3,000万円)を調達する予定にしている。Ignite RATINGSが発行する仮想通貨であるIGNITEトークンを購入した人は、スマートコントラクトで運営される格付けプロセスに参加する権利を得ることになる。

Ignite RATINGSの格付けは5段階になっており、星5つが一番高く、星1つが最低のランクになる。既存の格付け機関の場合、AAAやBBなどのランクになっており、金融機関で働いている人や企業の財務部に所属している人以外にとって分かりにくい表示であるが、Ignite RATINGSは分かりやすい5段階格付けになっている。

Ignite RATINGSが興味深いのは、格付けを行うIGNITEトークン保有者も評価される仕組みを採用していることだ。2008年の金融システム不安を引き起こしたとされる既存の格付け機関の場合、誰からも評価されなかったことが大きな問題を引き起こしたとされている。

スマートコントラクトのプラットフォームを活用することで、Ignite RATINGSは仮想通貨だけではなく、格付けする人の評価をすることが可能になった。この点は大きなイノベーションであり、既存の格付け機関が抱えている最大の問題を解決する力をIgnite RATINGSは持っていることになる。

仮想通貨以外も格付けする予定

Ignite RATINGSのウェブサイトを見ていて興味をひかれたのは、「よくある質問(FAQ)」部分である。その中で、Ignite RATINGSは国債や社債などの伝統的な資産についても、将来的に格付けを行う予定であると述べている。

現状では、仮想通貨やICOに関する客観的な情報が絶対的に不足しているため、Ignite RATINGSはこれらの格付けについて最初に取り組むとしている。仮想通貨やICOへの格付けが一段落すれば、Ignite RATINGSはアメリカ国債や日本国債などの格付けを始めるかもしれない。

これは大きな変化であり、既存の格付け会社にとってIgnite RATINGSは脅威になる可能性がある。

依頼格付けが出てくるかどうかがポイント

既存の格付け機関の場合、企業に対して勝手格付けと依頼格付けの2種類が行われている。勝手格付けの場合、格付け機関が対象企業の依頼なしに勝手に格付けを行うことになる。一方の依頼格付けでは、債券を発行する企業などが格付け機関に依頼し、格付け手数料を払って格付けをしてもらうことになる。

金融機関や企業の場合、発行する債券に格付けが付いていないと、投資家が購入しにくいという事情がある。既存の格付け機関のランキングでは、BBB(トリプルビー)が投資適格ぎりぎりのラインであり、BB以下になってしまうとジャンク債扱いになってしまい、担保価値がないと判断されることになっている。

上記のような取り決めがあるため、既存の格付け機関は大きな力を持っているのである。Ignite RATINGSが企業の依頼格付けをするようになれば、将来的に大きな影響力を及ぼす可能性があり、現在の格付けシステムが抱えている問題の根源を解決できるかもしれない。

コインマン
日本初の仮想通貨評論家「コインマン」として活動する元外資系金融マン。債券ブローカーとしてニューヨークで勤務し、東京では当局対応として金融庁と対峙したリアル半沢直樹。
毎朝4時に起床し、仮想通貨ニュースを執筆する日々を過ごしている。フランスに留学していた親仏家であり、ヨガインストラクターを目指していたヨガマニアでもある。