元金融機関の視点で日本における仮想通貨の規制について考察してみた

法定通貨では面倒な相続手続きも仮想通貨であればブロックチェーン技術で簡単に処理が可能?

2017年8月に1ビットコインの価格が歴史上初めて4,000米ドルを突破し、アメリカと北朝鮮の間で緊張が高まるに連れて、「有事のビットコイン買い」という言葉までメディアで登場するようになった。

迅速な決済と安い手数料が魅力の仮想通貨だが、急激な発達と普及の背景には政府による規制が少なく、インターネット上ですべて完結する仕組みが背景にあると言われている。
多くの国で監督官庁が不透明な仮想通貨だが、日本では2016年に改正資金決済法が国会で成立し(施行は2017年)、仮想通貨取引所は財務局で登録を行うことが求められるようになった。
主要国の中で最初に国レベルの登録体制を整えた日本だが、評価する声がある一方で、規制強化を懸念する意見もある。
私は金融機関で働いていた時、当局対応担当者として金融庁、財務局、経済産業省とやり取りをしてきた。
今後、政府による関与や規制強化が予想される仮想通貨について、行政指導がどのような形で行われるかについて考察をしてみた。

仮想通貨の拡大は中央管理者の不在が大きな要因

2008年9月、アメリカの大手投資銀行だったリーマン・ブラザーズが経営破たんし、世界は金融システム不安の恐怖に怯える日々に突入した。
当時、私が所属していた金融機関では、「全世界で3割の従業員を削減する」という発表があり、一緒に働いていた同僚が次々といなくなった。
そんな2008年後半、9枚のPDFにまとめられた短い論文がインターネット上で発表された。
論文の発表者は、サトシ・ナカモトという謎の人物であり、日本人であると考えられているが、正式な国籍は不明で、現在でも実態は明らかになっていない。
ナカモトは論文の中で、中央管理者が不要なブロックチェーン技術を活用し、政府や中央銀行がいない状態であっても、迅速な決済と持続運営が可能な仮想通貨であるビットコインを提唱した。
2008年以降、経営不安に陥った欧米の金融機関に対して公的資金が次々に投入され、政府による金融システム管理が顕著になっている中、2009年に仮想通貨の運営が開始され、最初の決済はビットコインによるピザの購入だったと言われている。
ビットコインをはじめとする仮想通貨の数は全世界で1,000以上になっていると言われているが、この拡大の背景には中央管理者がいないことがあったと考えられている。
中央管理者がいないということは、権力を持っている個人や組織によるコントロールが要らないことを意味する。

2014年のマウントゴックス破綻が引き金で国が動き出す

2009年から仮想通貨による決済が始まり、ビットコイン専用のATMが登場するなど、欧米ではさまざまなイノベーションが起こっていたが、日本での普及や理解は遅れていたとされる。
国会で閣僚がビットコインについて、「あれは通貨なのか?」と発言したことが報道されるなど、仮想通貨について国として関与する機運はそれほど高くなかったのである。
そんな中、2014年に当時、日本最大のビットコイン取引所だったマウントゴックスで幹部による顧客資産の横領が発覚し、ビットコインが引き出せなくなる事件が発生した。
マウントゴックスのシステムに対する外部からのクラッキング(ハッキング)行為も明らかになり、テレビや新聞などが「マウントゴックス事件」として大きく取り上げた。
マウントゴックス事件により、仮想通貨に対するネガティブなイメージが日本で浸透したと言われており、2014年以降、ビットコインの価格も低迷を続け、本格的な回復は2017年に入ってからである。
マウントゴックス事件をきっかけに、政府で仮想通貨に対する規制強化の機運が高まり、2016年に成立した改正資金決済法で仮想通貨取引所の登録制度が整備されることになった。

政府は仮想通貨取引所にどう関与してくるか?

ややマニアックな話になってしまうが、金融機関の場合、業種によって監督官庁は異なってくる。
銀行の場合は金融庁、証券会社は証券取引等監視委員会、貸金業者は財務局、クレジットカード会社は財務局と経済産業省という感じになっている。
クレジットカード会社になぜ2つの監督官庁があるかと言うと、キャッシングは財務局(貸金業法)、カード業務は経済産業省(割賦販売法)と準拠法によって報告先が異なるためである。
以前、私はクレジットカード会社で働いていたことがあるが、この2重行政によって大変苦しめられたことを覚えている。
仮想通貨取引所は本拠地がある財務局で、「仮想通貨交換業者」としての登録を行うことになる。
東京に本拠地がある取引所は関東財務局、大阪にある場合は近畿財務局が報告先になる。
財務局は仮想通貨取引所の登録審査について、以下3つのポイントを挙げている。
・利用者保護の内部管理体制・利用者から預かっている財産と自社の仮想通貨の分別管理体制・コンピューターシステムリスク管理体制

半沢直樹の金融検査はパロディ?

半沢直樹の金融検査はパロディ?
仮想通貨交換業者としての登録を行った取引所は政府の公認を得られるというメリットがあるが、同時に金融検査という恐怖とも戦わなければならない。
2013年に半沢直樹というドラマが人気になり、銀行員である主人公が金融庁の検査官と対峙するシーンが話題になった。
ドラマであるため誇張が加えられており、実際の金融検査はあのような感じではなく、半沢直樹における検査官の描写などは完全なパロディである。
半沢直樹は銀行で働いていたため、金融庁による検査になっていたが、仮想通貨取引所への検査は財務局が行うことになる。
財務局への登録を完了した仮想通貨取引所に対して、今後、定期的に金融検査が実施されることになる。
その中で、顧客保護やシステム運営などの内部管理体制に不備があると、業務改善命令などの行政処分を受ける可能性があり、処分が解除されるまで3カ月ごとに報告書を提出させられることになる(これは本当に大変である。経験者談)
金融検査が実施される場合、当局の窓口になっている仮想通貨取引所の企画担当者か代表電話に連絡が入り、検査予定について財務局の検査官から説明を受けることになる。
企画担当者に電話が直接入れば良いのだが、代表電話に連絡が来ると、電話を受けた人が慌ててきちんとした対応ができなくなるなるケースがある。
財務局から代表電話に連絡が入った場合、すぐに企画担当者につなげられる体制を整えることは非常に重要である。
この最初の印象によって、財務局の姿勢が変わってくる可能性があるのだ。
財務局による仮想通貨取引所に対する検査期間は不明だが、私の経験上、1カ月以上滞在する可能性は少ないだろう(財務局の人たちも、結構忙しいのである)
金融検査が長ければ長いほど、問題が発覚している可能性が高いことを意味する。
検査で問題がなければ、検査官はすぐにいなくなり、次にやってくるまでのスパンが長くなることが多い。
問題が発覚してしまうと、次の検査がすぐにやってきたりするため、財務局への対応は、仮想通貨取引所にとって非常に重要になる。

仮想通貨取引所の登録制度を構築した日本の法整備について、実は評価する意見があったりする。
改正資金決済法の成立によって、日本で仮想通貨の取引が活性化すると予想し、シンガポールの仮想通貨取引所が本拠地を日本に移す動きまであった。
2014年のマウントゴックス事件のようなことを避けるため、国レベルの仮想通貨規制に乗り出した日本の動きに世界が注目しているのである。

コインマン

日本初の仮想通貨評論家「コインマン」として活動する元外資系金融マン。債券ブローカーとしてニューヨークで勤務し、東京では当局対応として金融庁と対峙したリアル半沢直樹。
毎朝4時に起床し、仮想通貨ニュースを執筆する日々を過ごしている。フランスに留学していた親仏家であり、ヨガインストラクターを目指していたヨガマニアでもある。

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