【コインマンと考える】ビットコインは通貨なのか?

 ウォーターゲート事件で、1974年8月9日に辞任=1974(昭和49)年5月15日配信(撮影月日不明)(UPI=共同)(アイゼンハワー政権の副大統領を務め、1969年から第37代アメリカ合衆国大統領。米国大統領、米大統領)

信頼があれば法定通貨でなくても通貨になる

1971年、当時のアメリカ大統領だったリチャード・ニクソンが米ドルと金(ゴールド)の兌換(だかん)停止を宣言し、金本位制が終了することになった。

金という後ろ盾を失なった法定通貨は、政府や中央銀行に対する信頼だけで流通することになり、ただの紙や金属である紙幣や硬貨が、無条件に強制通用力を持つことになったのである。

1976年にノーベル経済学賞を受賞したアメリカの経済学者ミルトン・フリードマンは、規制のない自由な経済を理想としており、資本主義経済下においては、市場原理にまかせることによって社会が発展すると考えていた。

ただ、フリードマンは中央銀行の業務だけは、政府が担当するべきと述べている。通貨の発行や流通量のコントロールを民間にまかせてしまうと、「市場の失敗」が発生するリスクが高いことを、フリードマンは認識していたからである。

フリードマンは著書「貨幣の悪戯(三田出版会、1993年)」の中で、ミクロネシアの島にある不思議な石貨のことを説明している。

その島では金属資源が取れないため、石灰岩で製造された3メートル以上の大きな車輪のような形をした石貨が、古くから通貨として利用されていたという。

その石貨は「フェイ」と呼ばれており、所有者の庭などに立てられており、誰でも触れる状態にあったらしい。

面白いことに、所有者がフェイを使って大きな買い物をしても、車輪の形をした石貨が次の所有者のところに移動されることはなかったという。

大きくて重いフェイを持ち運ぶのが大変であるということはあっただろうが、所有権が移ったという事実が分かっているだけで、次のフェイの所有者は満足したからであるとフリードマンは述べている。

ミクロネシアの島に存在した不思議な石貨フェイは、まぎれもなく通貨であったと考えられる。なぜならば、島民はフェイのことを信頼し、商品やサービスとの交換に応じていたからだ。

また、フェイは法律によって強制通用力が与えられている法定通貨でもなかった。にもかかわらず、フェイは通貨としての役割を果たしていたのである。

この事実は、ビットコインなどの仮想通貨が「通貨であるかどうか?」を論じる上で参考になる。

通貨として認められる要素とは何か

通貨として認められるためには、2つの要素をクリアする必要があると考えられている。1つ目は、インフレになりにくいことである。

人類の革命はインフレが引き起こしてきたと考えられており、18世紀のフランス市民革命、20世紀の中国共産革命の背景には、インフレに対する人々の不満があったとされる。

インフレとは物価が上昇することであり、通貨価値が下落することを意味する。保有している通貨の価値が日に日に下がっていけば、人々はその紙や金属を通貨として認めなくなる。

ハイパーインフレが起こった20世紀後半のアルゼンチンでは、現地の法定通貨であるペソに対する信頼が急降下し、米ドルが主要決済通貨になったことがある。

アルゼンチンでの米ドル流通は、法定通貨(ペソ)であってもインフレで信頼がなくなれば、通貨としての体をなさなくなることを意味している。

一方、仮想通貨はインフレに強いと考えられている。その理由は、多くの仮想通貨に発行上限というキャップが定められているからだ。

2017年に入って、多くの仮想通貨価格が急騰しているが、これは「仮想通貨のデフレ現象」とも言える。デフレとは物価が下がることであると同時に、通貨価値の上昇を意味する。

今後、仮想通貨バブルが崩壊し、価格の急落が始まる可能性は否定できないが、現時点において、仮想通貨はインフレになっておらず、通貨として認められる1つ目の要素をクリアしていると言えるだろう。

通貨としての要素を満たすための2つ目は、インチキがしにくいことである。我々が普段利用している法定通貨である日本円は、世界でもっとも偽造が難しい通貨の一つだと考えられている。

1万円札や5千円札にはホログラムと呼ばれる最新の偽造防止措置が施されており、偽造するためにはかなりの設備と高度な技術が必要とされる(それでも偽造しようとする人はいるが)。

ビットコインなどの仮想通貨は、法定通貨よりもさらにインチキがしづらい設計になっている。

ブロックチェーン技術によって高度な暗号処理が行われた上で決済、取引がなされるため、外部からの不正で仮想通貨が偽造されたりするリスクは極めて低いとされている。

ビットコインの流通が急拡大し、世界中で実際の決済手段として仮想通貨が利用されている背景には、通貨として認められる要素である「インフレへの強さ」と「インチキしづらい」という2点を満たしているからだろう。

150年前までは米が通貨代わりだった

通貨の歴史は、貧富の差の歴史とも言える。人類の歴史で貧富の差が最初に発生したのは、農耕が開始されたメソポタミアであったと考えられている。

今からおよそ5,000年前のメソポタミアにおいて、農耕が始まって穀物の貯蓄が可能になり、持てる者と持たざる者が生まれることになった。

穀物を持つ者が豊かな支配者という社会に違和感を感じるかもしれないが、江戸幕府が社会を統治していたほんの150年前の日本では、米が通貨代わりとして利用されてきた。

江戸時代は農民が米を税として納めていたことから、正に通貨の役割を果たしていたことになる。年貢として集められた米は、当時の支配階級だった武士たちに俸禄(給料)として支給された。

武士たちは自分たちが食べる分の米を取っておいて、残りは米問屋に売るという仕組みになっていたようである。

大名の勢力を表す「△万石」という単位は米の量を意味しており、米が通貨としての役割を果たしていたことが分かる。現在であれば、時価総額「〇兆円」という感じだろう。

江戸幕府は、金や銀によって製造された貨幣を流通させていたが、希少性が高いこれらの金属を徴税で利用するほど大量製造できなかったとも考えられている。

江戸時代には法定通貨である金貨や銀貨に代わって、米が通貨の役割を果たしていたことになる。

法定通貨でなくても、多くの人が信頼すれば通貨になりうることを、江戸時代の米は示していると言えるだろう。

政府や銀行への不信が仮想通貨普及の要因

ここまで仮想通貨が通貨であるかどうかについて解説してきたが、世界中でビットコインなどが利用されており、信頼を獲得していることから通貨としての役割を果たしていると考えることが可能だろう。

仮想通貨は法定通貨ではないが、20世紀後半のアルゼンチンにおける米ドル、江戸時代の米と同様に広く流通しており、実際の買い物でも利用されている。また、基軸通貨である米ドルと同様に国境を越えて拡大していることもポイントだろう。

2008年にアメリカの大手投資銀行だったリーマン・ブラザーズが破綻し、経済危機を回避するために各国政府が金融機関に天文学的な公的資金を注入した。

政府や銀行が中央で管理する金融システムへの不信がうずまく中、ビットコインの仕組みがインターネット上で提唱され、急速に仮想通貨が普及していった。

法定通貨を使って管理されている既存の仕組みに対する信頼の揺らぎが仮想通貨の勢力を拡大させ、通貨としての信用力を高めていったと言えるだろう。

コインマン
日本初の仮想通貨評論家「コインマン」として活動する元外資系金融マン。債券ブローカーとしてニューヨークで勤務し、東京では当局対応として金融庁と対峙したリアル半沢直樹。
毎朝4時に起床し、仮想通貨ニュースを執筆する日々を過ごしている。フランスに留学していた親仏家であり、ヨガインストラクターを目指していたヨガマニアでもある。