【Auctus】年金もICOに頼る時代?

公的年金がなくならない理由

日本の公的年金について色々な議論が行われており、選挙などでも社会保障問題が大きな争点になっている。会社員以外の自営業者などが加入する国民年金の未納問題がクローズアップされて久しいが、何だかんだと言いながらも国がバックにある公的年金はなくなることなく運営されている。

公的年金がなくならない理由はいくつかあるが、一番大きいのは税金によるサポートだろう。公的年金の給付金の半分は、国民が収めた保険料で負担されているが、もう半分は国庫負担、つまり税金でまかなわれている。

日本の公的年金の場合、高齢者になってから給付される老齢年金に加えて、ケガや病気などの理由で働くことができなくなった際に支給される障害年金も用意されている。

民間の保険会社が、公的年金と同じ仕組みを用意することは事実上不可能である。民間の保険会社の場合、利益を上げなければ持続することができないからだ。公的年金がなくならないのは税金が投入されているためであり、現在の日本政府が存続する限り、公的年金がなくなることはない。

民間の保険会社ではとてもできないようなサービスを提供している公的年金だが、政府に対する不信などから「遅かれ早かれ破たんする」と述べる識者も存在している。

公的年金に対して不安を頂いているのは日本だけではなく、世界中が同じ状況のようである。そんな中、ブラジルで新しい年金の仕組みを提供しようとするICOプロジェクトが登場した。そのプロジェクトの名は、「Auctus Project」である。

積立方式の年金の方が安心

若干マニアックな話になるが、日本を含めて主要国の公的年金は賦課(ふか)方式を採用している。賦課方式の年金とは、現役世代の負担する保険料が現在の受給者への支払いに充当されるシステムのことである。

私の場合、自営業者であるため国民年金の保険料を支払っている。一方、私の両親は公的年金を受け取っている立場である。賦課方式を導入している日本の場合、私が毎月支払っている国民年金の保険料は、私の両親が年金として受け取る原資になっているわけだ。

民間の保険会社が提供している個人年金保険の場合、積立方式の商品になり、賦課方式を取ることはできない(当たり前だ)。民間の保険会社を利用する場合、自分で積み立てておいた保険料が将来受け取る年金の原資になる。

公的年金の場合、半分が税金でまかなわれているということもあって賦課方式が可能になっているわけだが、保険料を負担している現役世代からすると納得しがたい部分があり、持続可能性について不安を感じるような仕組みになっている。

今回紹介するAuctus Projectが導入しようとしているのは、積立方式の年金である。
公的年金の場合、各国政府がそれぞれ管理・運用しているが、
Auctus Projectの場合、世界中の投資家から資金を集め、国境を意識することなく運営できるというメリットがある。

公的年金は内向きでムダだらけ

Auctus Projectは、2017年11月14日から11月28日までICOを実施する予定になっている。既存の公的年金が抱えている膨大な事務作業や非効率な仕組みについてAuctus Projectは批判しており、自動契約という新しい仕組みを活用することによって、仲介者がいない状態で効率的な年金システムを構築できると主張している。

私は金融機関で15年以上働き、運用業務などにも携わった経験がある。資産運用を担う会社の場合、ある程度の規模を持っている方が有利になるケースが多い。金融の場合、取り扱う額が大きくなればなるほど有利な条件を引き出しやすくなるためだ。

このような背景があるため、金融機関はグローバル化を推進して規模を拡大し、世界各国に支店を持とうとするわけだ。

公的年金の場合、運営単位が国レベルになっているため、日本とアメリカが同じ年金制度を導入することはできない。ただし、日本の公的年金は海外の株式などへの投資を行っており、運用の面では少しずつグローバル化が進んでいる最中である。

しかしながら、シンガポールや中東、アメリカなどの公的年金と比較すると、日本の公的年金運用制度は遅れているとされ、運用パフォーマンスも世界的に見ると低いところに位置している。

現在の公的年金制度が抱えている問題として、Auctus Projectは以下の5つを指摘している。

  • 低い統治能力
  • 非効率な徴収プロセス
  • 隠れたコスト
  • 不正、不祥事
  • データ管理
  • 政府が管理しているはずの公的年金の統治能力が低いと言われると、行政側にとっては屈辱的だろう。ただ、日本の公的年金で発生した支給漏れ問題などを考えると、統治能力が低いと言われても致し方ないような気がする。

    2つ目の「非効率な徴収プロセス」、日本の公的年金が抱えている大きな問題である。国民年金の未納率が新聞やテレビなどのメディアで報道されているが、紙の請求書を送付して保険料の支払いを求める原始的な徴収プロセスは、非効率以外の何物でもない。

    3つ目の「隠れたコスト」については、ある程度致し方ない部分がある。公的年金は政府機関によって運営されているケースがほとんどであり、紙文化、ハンコ文化がまかり通っている役所では、高コスト体質にならざるをえないためである。

    4つ目の「不正、不祥事」と5つ目の「データ管理」は、世界中の公的年金が抱えている共通の問題である。日本でも過去に公的年金で不正や不祥事が相次ぎ、データ管理が適切に行われていないことで大きな混乱が生じた。

    Auctus Projectは紙の手続きが不要であり、すべての契約作業が自動で行われる仕組みを採用する予定である。そのため、既存の公的年金が抱える上記のような問題に苦しめられることはないと説明している。

    最初は伝統的な仕組みに頼らざるをえない

    ICOを実施する企業は、ホワイトペーパーと呼ばれる事業計画書をウェブサイトに掲載することが一般的になっている。Auctus Projectはホワイトペーパーの中で、「運営当初は伝統的な仕組みや投資先に頼らざるをえないが、将来的にはすべての手続きをモデル化し、仮想通貨だけを投資先にしたい」と述べている。

    Auctus Projectは、2018年第1四半期に最初の年金ファンドを開始する予定になっている。また、2018年第2四半期からは伝統的な投資を行っているファンド会社や年金運用会社などと連携するとウェブサイトで説明している。

    2018年第3四半期からは、法定通貨による支払いが可能になる仕組みを導入し、主要なマーケットにおいて伝統的な投資を行うためのプラットフォーム拡大を目指す予定である。さらに、2018年第4四半期には、年金を担保にした融資の仕組みを開発するとしている。

    伝統的な公的年金の仕組みを批判しているAuctus Projectが、最初のうちは伝統的なやり方に頼らざるをえないというのは皮肉であるが、ビジネス上の現実的な判断なのだろう。

    Auctus Projectが指摘する通り、日本だけではなく世界中で公的年金が問題を抱えており、何らかの解決策が必要になっている。2017年11月にICOを実施するAuctus Projectが、人類共通とも言える年金問題を解決できるかどうかは、ある程度の時間が必要になるだろう。

    コインマン

    日本初の仮想通貨評論家「コインマン」として活動する元外資系金融マン。債券ブローカーとしてニューヨークで勤務し、東京では当局対応として金融庁と対峙したリアル半沢直樹。
    毎朝4時に起床し、仮想通貨ニュースを執筆する日々を過ごしている。フランスに留学していた親仏家であり、ヨガインストラクターを目指していたヨガマニアでもある。

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