流動性を生み出せない仮想通貨

金融機関の役割は信用創造

私は以前、外資系金融機関に勤めており、主な役割は顧客の資産を預かって流動性を供給することだった。

私の最初の配属先はプライベートバンキング部門という富裕層向けビジネスを行うところで、金融資産10億円以上の個人向けに金融ソリューションを提供する業務を行っていた。

日本の場合、富裕層の大半が企業経営者という事情があり、顧客の多くは自社株を使っていかに流動性を生み出すかを考えていた。

株式と言うと、東京証券取引所などに上場されている銘柄をイメージされる方が多いかもしれないが、実際には未上場の株式を保有している中小企業経営者やベンチャー起業家などが日本にはたくさんいる。

これらの経営者は株式を大量に保有しているものの、現金はそれほど持っていないという悩みを抱えている。

中小企業やベンチャー企業の株式は上場されていないケースがほとんどで、流動性が乏しいという問題があるからだ。

私の仕事は、これらの流動性の低い株式に担保を設定し、融資の形で信用を創造して流動性を顧客に提供する事だった。

私の前職は外貨やデリバティブに強い外資系金融機関だったこともあり、当時としては革新的な金融ソリューションを開発していた。

どうしてこのような話をしたかというと、私がやっていた未上場株式への流動性供給に似たソリューションが、現在の仮想通貨業界でニーズとして出始めているからである。

外貨や株式、債券は担保設定ができる

銀行で外貨取引をしていたり、証券会社で株式や債券などの証券取引をしている人であれば、外貨担保ローンや証券担保ローンなどで保有している資産を売ることなく、融資を受ける仕組みが提供されていることをご存知かもしれない。

銀行や証券会社の場合、顧客から預かっている資産をいかに売らすことなく(?)融資を受けてもらうかがビジネスとして重要になる。

金融機関の主な役割は信用創造であり、流動性の供給が求められている。これは、金融機関の社会的使命や公共性の観点から重要なポイントであるが、同時に銀行や証券会社などにとって利益の面からも大切なのだ。

金融機関からすると、顧客が保有している外貨や証券をそのままにしてもらいながら融資を受けてもらうことで、ローン金利を稼ぐことができるからである。

一方、担保として設定している外貨や証券の価値が急落してしまうと、顧客が借りているローンに対する担保額として不足するケースがあり、この場合、追加担保の差し入れを金融機関側から求められることになる。

外国為替証拠金取引(FX)の経験がある人であれば、2008年にリーマン・ブラザーズが破綻した際、外国為替相場が大幅な円高に振れ、「証拠金が足りなくなりました」という通知をFX業者から受け取ったことがあるかもしれない。

FXの場合、外国為替相場が大きく動いてしまうと、差し入れている証拠金と保有ポジションを無理やり相殺される可能性があり、これはロスカットと呼ばれている。

2008年に金融危機が起こった際や、2015年にスイスの中央銀行が市場介入を急遽停止する発表をした時などは外国為替相場が大きく動き、FX取引を行っていた人の中には差し入れていた証拠金では不十分になり、FX業者から多額の追加証拠金を求められ、債務整理を検討した人もいるくらいである。

FXの場合、25倍までレバレッジをかけることが可能になっているため、上記のようなリスクが発生することになる。

乱高下が激しい資産には担保設定しにくい

日本の場合、仮想通貨取引についてもレバレッジをかけられる仮想通貨取引所があり、ビットコインの買い、売りなどのポジションで信用取引を行うことが可能になっている。

しかしながら、日本の仮想通貨取引所で、顧客が保有しているビットコインなどの仮想通貨に担保を設定し、法定通貨である円の融資を行っているところは聞いたことがない。

顧客が保有しているビットコインを仮想通貨取引所に貸し出し、期間に応じて、金利の形でビットコインを受け取るサービスを提供している仮想通貨取引所はあるが、日本ではまれな存在である。

日本の場合、仮想通貨に担保を設定して法定通貨を貸し出す場合、貸金業法が出てくることになり、金融庁や各都道府県に貸金業者登録をしなければならないという行政手続きが発生することになり、これが面倒で多くの仮想通貨取引所は法定通貨の貸出を行っていないと考えられる。

また、2017年12月に入ってビットコインの価格が10,000米ドルを突破しているが、9月には中国政府のICO禁止措置発表やJPモルガンCEOの「ビットコインは詐欺」発言などがあって、一時3,000米ドルを割り込むなど乱高下相場が続いている。

乱高下があまりにも激しい資産の場合、担保を設定してお金を貸し出したとしても、担保割れが発生する可能性が高く、貸倒リスクも大きくなるため、仮想通貨取引業者として流動性を供給するためのサービスを展開しにくいという事情もあるだろう。

日本の金融関連法規制は複雑すぎる

こちらのニュースサイト「bit-life(ビットライフ)」ではあまりお伝えしていないが、私は前職でクレジットカード会社にも出向していたことがある。

日本のクレジットカード会社の場合、監督官庁が経済産業省(経産局)と金融庁(財務局)の2つになっており、今話題の大阪府と大阪市もびっくりの二重行政が行われている。

普段、我々が使っているクレジットカードの支払いなどについては経済産業省が管轄しており、クレジットカードを使ってATMなどでキャッシングをすると金融庁が出てくる法体系になっているためである。

私はクレジットカード会社で働いていた時も当局対応に従事していたのだが、クレジットカード業務は経済産業省で、キャッシング業務は金融庁に報告を行う必要があり、似たような書類を2つ用意するなど非常に非効率だった。

役所相手の業務の大半は非効率なのだが、二重行政が出てくると本当に訳が分からなくなる。

銀行、証券会社、保険会社、クレジットカード会社、消費者金融会社、ソーシャルレンディング会社、仮想通貨取引所などの金融業者に関連している法律を、2018年度中に金融庁がまとめる方向であることを、先日の日本経済新聞が報じた。

この報道が現実のものとなれば、仮想通貨取引所や仮想通貨関連業者にとってさまざまなビジネスチャンスが生まれることになるだろう。

現時点では、銀行法、金融商品取引法、割賦販売法、保険業法、貸金業法、資金決済法などが乱立しており、クレジットカード会社のように複数の法律を確認しながら、2つの官庁に報告しなければならない業種もある。

2017年8月8日にこちらのbit-lifeで掲載された私の記念すべき最初のICO記事「仮想通貨を担保にローンを借りられるサービスが海外で登場」で、アメリカにあるSALTという企業を紹介した。

SALTでは、ビットコインなどの仮想通貨を担保にして、米ドルなどの法定通貨を貸し出しており、過去に破産歴などがある人であっても仮想通貨を差し入れることでお金を借りられるようになっている。

2018年度中に日本の金融関連法が再編され、SALTのようなサービスを行う企業が日本でも現れることを期待したい。

コインマン

日本初の仮想通貨評論家「コインマン」として活動する元外資系金融マン。債券ブローカーとしてニューヨークで勤務し、東京では当局対応として金融庁と対峙したリアル半沢直樹。
毎朝4時に起床し、仮想通貨ニュースを執筆する日々を過ごしている。フランスに留学していた親仏家であり、ヨガインストラクターを目指していたヨガマニアでもある。

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