【コインマンと考える】法定通貨が使えなくなったらどうなるのか?

北欧はキャッシュレス社会を目指している

私は以前フランスに住んでいたことがあって、その時に北欧を旅行することがあった。ノルウェーやスウェーデンなどの国を現地の友人に案内してもらったのだが、基本的に現金を使う機会がなかった。

小さな屋台でケバブを買った時にもクレジットカードを使うことができ、北欧は社会全体でキャッシュレスを目指していることを肌で感じたものだ。

北欧がキャッシュレス社会に向かっている背景には、政府の後押しがある。税金を可能な限り正確に徴収したい政府としては、現金取引が多くなってしまうと、店舗や企業の売り上げを把握することができない。

すべての商取引がクレジットカードや電子マネー、銀行送金経由で行われるようになれば、やり取りがガラス張りになって脱税行為が非常に難しくなるわけだ。

日本は異常な現金偏重社会

一方、日本は主要国の中で特殊とも言えるほどの現金偏重社会である。私は朝食をかなり食べる方で、ときどきチェーンのとんかつ屋に行くことがある。全国に店舗を展開している大きなチェーン企業だが、何とクレジットカードが使えないのだ。

私は学生時代、あるイタリアン・レストランのチェーン店に取材に行ったことがある。ケース・ワークと呼ばれる課題の一環で、実際のビジネスを行っている企業に話を聞きにいって、ケースと言う資料を作成するためだ。

そのイタリアン・レストランでも、例によってクレジットカードを利用することができなかった(今でも基本的に使えないみたいだ)。

そこで幹部の方に「なぜクレジットカードを使えるようにしないのですか?」と聞いたところ、以下のような回答を得たことを覚えている。

「クレジットカードを利用可能にすると、手数料が5パーセントもかかってしまいます。我が社は安くて美味しいイタリア料理をお客様に提供することをモットーにしています。現金決済であれば5パーセントのクレジットカード手数料がかからず、コスト削減につながるのです」

これは一見正しい経営判断のように思えるが、現金を保管するコスト、盗難を予防するための手続き、銀行まで現金を持って行く時間などを考えると割に合うかどうか微妙である。

中小の飲食店ではクレジットカードや電子マネーを取り扱わず、現金払いしか受けつけないところが日本には多い。

これらの飲食店では、クレジットカード会社に手数料を支払いたくないというインセンティブに加えて、現金取引であれば税務当局に督促されにくいという経営上の理由があると考えられている。

日本で円が使えなくなったらどうなるのか?

最近は、「有事のビットコイン買い」に並んで「有事の円買い」が行われるケースが多くなっている。

北朝鮮情勢が緊迫するなど地政学リスクが高まると、インターネットですべての取引が完結し、国境を越えた資金移動が可能なビットコインに買いが入るパターンが出始めている。

また、人工知能などで投資を行っているロボットは地政学リスクが上昇した時、自動的に株式などの投資性商品を売って、安全資産とされる円を購入するようインプットされていると考えられている。

日本で住んでいる我々が考えている以上に、世界からの円に対する信頼が厚い証拠とも言えるが、仮に現在の円が日本で使えなくなったらどうなるのかを考えてみたい。

「そんなこと起こるはずがないだろう」とお考えの方がいるかもしれないが、71年前の1946年に日本政府はすべての銀行を封鎖して、旧円紙幣の使用を禁止し、新円しか使えない政策を実施したことがある。

1946年は太平洋戦争に日本が敗れた直後であり、物資不足とハイパー・インフレに社会が悩まされていたという特殊事情はあったが、旧円紙幣を使えなくして政府債務を帳消しにすることが目的であったと考えられている。

現在の日本は国と地方を合わせてGDP比2倍以上の財政赤字が発生しているが、3兆米ドルにも上る対外資産があり、銀行封鎖や新円発行に追い込まれる状況には至っていない。

日本で円が使えなくなった場合、ビットコインなどの仮想通貨が決済手段として用いられる可能性はあるのだろうか?

ビットコインは実際の買い物で使いにくい

日本の大手家電量販店やインターネット・ショップなどでビットコインが利用できるようになっているが、使い勝手が必ずしもよいとは言い難い。

10万円以上の買い物にビットコインは使えないケースがあり、結局はクレジットカードで支払う方が早かったりするのが実情である。

この記事を執筆している2017年11月14日のビットコイン価格は6,800米ドルを突破している。

2017年9月に中国政府がICO禁止措置を発表したり、アメリカの大手銀行CEOによる「ビットコインは詐欺」発言などがあり、一時的に急落を経験したが、ビットコインは力強い上昇を再び始めたようだ。

日本で円が使えないような事態が発生した場合、国際金融や世界経済は大混乱の状況に陥っていることが予想され、ビットコインなどの仮想通貨価格は現在よりも急騰しているだろう。

そうすると、ビットコインの価格が普通の人はもはや手出しできない水準になっていることが予想される。つまり、米ドルやユーロなどの外貨を大量に保有している一部の金持ちしか仮想通貨を買えなくなる事態が想定されるのだ。

また、ビットコインなどの仮想通貨はオンライン上でしか取引することができない。ビットコインなどの仮想通貨でしか決済できない社会に日本がなってしまうと、インターネットにアクセスがない人たちは物々交換しかできなくなる。

キャッシュレス化を進めている北欧諸国でも、政府が「現金はなくさない」という方針を打ち出している。生活保護を受けている人や所得があまりない人の中には、クレジットカードや電子マネーを持つことができないケースがあるためだ。

結局は昔のアルゼンチンのようになる?

ハイパーインフレによって法定通貨が使えなくなったケースは世界中で例があり、20世紀後半のアルゼンチンがよく知られている。

私は2001年にアルゼンチンに行ったことがあるのだが、過去のハイパーインフレを経験した現地の友人が、当時の様子の凄まじさを以下のように語ってくれた。

「スーパーの価格表示シールがあるだろう。あれが同じ日の午前と午後で全商品取りかえられていたんだ。本当にひどい時代だったよ」

20世紀後半のアルゼンチンではペソの価格が急落し、ハイパーインフレによってスーパーの食料品などの値札が一日のうちにすべてかえられて、午前と比べて午後は価格が高くなっていたということだ。

このような状況下では法定通貨であるペソが利用されなくなり、人々は結局米ドルを使って商取引を行うようになった。

現在でも、アフリカやアジアの発展途上国の中には法定通貨が不安定なために、米ドルで決済を行っている国や地域が存在している。

日本で円が使えなくなった場合、これらの国と同様に米ドルが決済手段として用いられることが予想される。

ビットコインなど仮想通貨は目に見えないこともあって、社会全体で広く流通する可能性は現時点で低いと言える。

仮に日本の法定通貨である円が使えなくなった場合でも、基軸通貨でありアメリカの法定通貨である米ドルが流通することになるだろう。

コインマン

日本初の仮想通貨評論家「コインマン」として活動する元外資系金融マン。債券ブローカーとしてニューヨークで勤務し、東京では当局対応として金融庁と対峙したリアル半沢直樹。
毎朝4時に起床し、仮想通貨ニュースを執筆する日々を過ごしている。フランスに留学していた親仏家であり、ヨガインストラクターを目指していたヨガマニアでもある。

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