スマートコントラクトは発展途上国向きの技術

法律や社会保障は強者のための仕組み

こちらのサイト「bit-life(ビットライフ)」で何回かお伝えしているが、私は会社員時代に2年間休職させてもらい、学生に戻っていたことがある。

外資系金融機関のギスギスした環境に疲れており、2008年の金融危機がとどめをさした形になったのだが、2009年から2011年までの2年間社会から離れて、ケースと呼ばれる教材に基づき、大学院で議論を重ねる日々を過ごした。

学生に戻っていた2年間でおよそ1,000個のケースを読んだことになり、かなりの議論を行ってきたことになるが、興味深かったものに社会保障のケースがある。

皆様もご存知の通り、社会保障はセーフティ・ネットとも呼ばれており、失業した時に給付される失業保険や、生活していくことが困難になった時に頼ることができる生活保護などがあり、ほとんどの先進国で導入されている仕組みである。

社会保障は各国の法律に基づいて運営されているわけだが、健康保険などの仕組みに詳しいある教授が、「法律や社会保障は強者のために作られている」と話したことが今でも印象に残っている。

政治家や官僚、企業経営者など、社会で力を持っているいわゆる強者の人たちは、社会保障制度の世話にならないケースの方が多い。

これらの強者たちは、失業保険や生活保護に頼る確率が低く、どちらかというと法律を制定して仕組みを設計したり、社会保障を維持するために多くの税金を納める側なのだろう。

ただ、前述の教授によると、「法律や社会保障が存在していないと、不満を抱えた人たちが現在の仕組みを変えるために立ち上がり、革命を起こすことを考える可能性がある。そのために、強者たちは法律によって社会保障を整備する」ということだった。

この考え方には賛否両論あると思うが、一つの考え方として興味深い。私は現在、自営業者として何とか生活できているが、仕事が明日からなくなる可能性はゼロではない。

仮に、私の仕事がいきなりなくなって、収入ゼロの期間が長く続いてしまうと、生活保護がなければ生きていくことが困難になる。

生活保護がない環境下で、仕事のない人たちが大量に出てくると、社会不安が発生し、現在の政治、経済の仕組み自体を変えようとする考えが出かねないと強者たちは恐れており、法律を整備して社会保障が存在しているというわけだ(あくまで、この教授の仮説だけど)。

法律は万能ではない

日本の場合、法による統治が行われており、問題があれば司法判断に委ねる制度が整備されているが、法律は万能ではなく、あちこちで揉め事が起こっている。

私は自分でビジネスを行っており、多くの取引先と直接さまざまな交渉を行っている。ほとんどの取引先がリーズナブルであり、同意した内容を実行してくれるケースが大半である。

しかしながら、依頼されたことを私がすべて実行しても、支払いに応じない取引先も中にはあったりする。

このような場合、どう対処するかが判断の分かれ目になる。日本の場合、金銭請求関連の法的手続きを行う場合、支払督促や少額訴訟などが選択肢になってくる。

ただ、これらの手続きは時間がかかり、裁判所が入ってくることもあって処理が非効率になりがちだ。現実的には、売掛金の大きさによって判断を行うことになってしまう。

現在の法体系では、一方が契約を守らない場合、裁判所に仲介してもらわないと履行を強制できない仕組みになっているからだ。

日本のような法治国家においても契約が破られるケースが存在しているくらいだから、法体系がきちんと整備されていない発展途上国では契約が守られない可能性がもっと高くなっているだろう。

スマートコントラクトはインチキできない

私は雑誌の「ニューズウィーク」を愛読しているのだが、2017年11月21日号は仮想通貨が特集されており、「ビットコイン:可能性と危険性」と題して、15ページ以上のページが割かれていた。

「ニューズウィーク:11月21日号」の中で興味深かったのは、「アフガン女性たちに金融力を!(P31)」部分だった。

この記事の中で、「アメリカでは60年代、イギリスでは70年代半ばまで、女性は自分名義の銀行口座を持つことが法律上許されなかった(P31)」という新たな発見があった。

ただ、記事の中で一番興味をそそられたのは、スマートコントラクトが「アフガニスタンの女性の自立支援につながる」と信じて、活動している人たちがいることを知ったことである。

スマートコントラクトで契約を行う場合、ブロックチェーンに内容が記録されるため、後で「言った言わない」などの水掛け論が発生しない仕組みになっている。

また、紙の契約書とは違い、スマートコントラクトの内容は破ったり、捨てたり、改ざんすることができないようになっている。

ニューズウィークの記事の中では、「デジタル市民団体」と呼ばれる非営利団体を設立して、ビットコインやイーサリアムなどの仮想通貨やブロックチェーン技術などを発展途上国の女性向けに伝えているアフガニスタンのロヤ・マフブーブ氏が登場している。

マフブーブ氏は2013年に、タイム誌の「もっとも影響力のある世界の100人」に選ばれたビジネスパーソンでもあり、彼女が経営する会社の社員たちは、ビットコインで給料を受け取っているという。

マフブーブ氏はスマートコントラクトについて、「契約上の義務を無視することは誰にもできない」と述べている。

発展途上国では、政治的な混乱に乗じて、契約や権利関係がうやむやになりがちであり、武装勢力が地域を掌握した後、最初に向かうのが銀行であるとマフブーブ氏は説明している。

紙の契約書に基づいて法定通貨で取引を行うと、政変が起こった際にすべてが白紙になったり、銀行に預けていた資産が凍結されるリスクが発生する。

また、マフブーブ氏によると、戦争や政変などで社会が混乱した時だけではなく、男性社会であるアフガニスタンでは、平時においても女性とのビジネスをなかったことにしようとする男性がいるという。

個人的には、日本もかなりの男性社会であり、これが他国に追い抜かれている要因の一つだと思うのだが、イスラム教徒が多いアフガニスタンなどの国では、日本とは比較にならない男尊女卑問題が横たわっているのである。

マフブーブ氏は起業家であり、将来的にブロックチェーン技術を使った金融サービスを始めたいとも語っている。

世界にはおよそ76億人が住んでいるが、銀行口座を持つことができないアンバンク(Unbanked)と呼ばれる人たちが25億人程度いると考えられている。

最近は、アンバンクの人たち向けに金融サービスを提供するICO企業が増えており、先進国に本拠地を構えながら、この問題を解決しようとする動きが出始めている。

今回紹介したマフブーブ氏も、スマートコントラクトによって手続きされる融資と保険の市場を作り上げ、仮想通貨をスマートフォンでやり取りするプラットフォームを立ち上げたいとしている。

先進国に住んでいる我々であっても、法律がきちんと履行されずに悩むことがあるのだから、いろいろなことが整備されていない発展途上国におけるスマートコントラクトの威力は計り知れないだろう。

今後、マフブーブ氏のような起業家がスマートコントラクトを活用して発展途上国の経済をどのように変えていくか、仮想通貨評論家として注目していきたい。

コインマン

日本初の仮想通貨評論家「コインマン」として活動する元外資系金融マン。債券ブローカーとしてニューヨークで勤務し、東京では当局対応として金融庁と対峙したリアル半沢直樹。
毎朝4時に起床し、仮想通貨ニュースを執筆する日々を過ごしている。フランスに留学していた親仏家であり、ヨガインストラクターを目指していたヨガマニアでもある。

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